88flavors|Many TEARS Later 2021.8.8. release
- 1. 泣いても
- 2. サムライガール
- 3. colors
- 4. 崖の街
- 5. アナ
- 6. 公園
- 7. Day by Day
- 8. Thank you
- 9. いつもの星
各配信サービスよりサブスクリプション&ダウンロード RRDD-0012, JAN-4582599350316
Amazon・オフィシャルサイトにてCD販売 3,300円, RRCD-0012, JAN-4582599350293
発売元 RECORDS
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http://records.co.jp/manytearslater/
Produced & Arranged by mayuko
M-1, 2, 4, 5, 6, 9 Music カユ, mayuko Lyrics カユ
M-3 Music mayuko Lyrics 日浦駿介
M-7, 8 Music & Lyrics mayuko
Additional Musicians
M-1 Drums ⼩関純匡
M-1 Bass OKP-STAR
M-2 Bass, Rhythm Programming OKP-STAR
M-2 Guitar ⾼⽥歩(⾼⾼-takataka-)
M-3, 6 Rhythm Programming ⽥中真⼆
M-4 Violin クラッシャー⽊村
Illustrations ig
Aqua
Timezの活動を終えたmayukoと私たちが再会したのは、2020年3月に3曲同時リリースされた配信シングルだった。「表立った活動はしない」と話していた彼女がソロプロジェクト“88flavors”を立ち上げた事実に、まずひと驚き。3曲ともに弾き語りの歌ものだったことにふた驚き。伸びやかで楽しそうな歌声にはもう心躍らせてしまった。その僅か3ヶ月後にピアノソロアルバムを発表。半年後には歌とピアノ曲を収録したEPを、そして8ヶ月のインターバルで全曲歌もののフルアルバムが到着。
この奔放なスピードだけ見ても相当面白いのだけれど、『Many TEARS
Later』と題されたアルバムの中身は、もっとうんと恐ろしく面白い。容赦ない振り幅、炸裂するユーモア、耳をくすぐるポップス、切ないラブソングにギュッとして、グッドメロディから滲む狂気にゾッとして、祈りにも似た歌声にそっと心寄せる。1曲1曲聴き進める度に泣けて、笑える。そして、そうだそうだ、mayuちゃんはこういう人だった!と納得するのだ。もしいま頭にクエスチョンマークが浮かんでいる方は、ぜひAqua
Timezの曲を聴き直してみてください。アバンギャルドな鍵盤がグルングルン肩を回して待っていると思いますよ。本作では鍵盤と歌声と歌詞とメロディとアレンジとサウンドとアートワーク、丸ごとギッチリのmayukoが待ち構えております。
■解散前には、「音楽は続けていくけど、表立った活動はしないと思う」って話していたmayukoさんが、88flavorsを立ち上げるに至った心境の変化を、まずお聞きしたいなぁと。
「ものすごく濃いバンド活動だったし、常に必死だったから、ちょっと休みたいという気持ちもあって、あの時は本気で、人前で演奏することはきっとないだろうなって考えていて。実際、裏方として音楽に関わっていく準備もね、ゆるゆるしてたんです。
ただAqua
Timezのファンの皆さんとの繋がりが、自分にとってとても大事なものだっていうことを、解散後もずっと感じていて。もうなんか……その話をすると涙が出そうになるんですけど。それをなくしちゃうのは、自分のことを大事にしてないんじゃないかというふうに思ったり。そうこうしているうちに、デビュー前に弾き語りする人に憧れて、自分もいつか!って夢見ていたことを思い出して。バンドで初めて大きなスタジオに入った時も、“こんなスタジオで弾き語りのCDを録音できたらいいな”とか想像してワクワクしたり。でもAqua
Timezが本格的に動き出したらキーボードでいっぱいいっぱいで。そしてボーカルの太志やフェスやテレビ番組で出会うヴォーカリストは才能溢れる人ばかりだから、自分が歌うなんて考える隙がなかった、完全に忘れていたんですよ。で、解散から半年くらいかな、少し余裕が生まれ始めた頃に、あっ、そういえば! みたいな。そこから動き始めて、録音やミックスができる環境を整えたり、ホームページを作ったり、配信の手配を1人でコツコツとやって、配信リリースしたっていう感じですね」
■曲作りはバンド時代の流れとしてあるし、歌もコーラスでレコーディングしていたわけだけども、配信の手配とか、権利関係の大人っぽい作業など、強い意志がないと超えられないハードルがあったと思うんですね。
「そうなのかな。でも曲を作って、音源ができたら、やっぱり聴いてもらいたいでしょ? それを本当に1人でやりたかったんですよ。バンド時代はたくさんのスタッフさんがいてくれて、自分で配信の手続きをやるとは思ってもなかったけども。誰かに助けてもらうとなると責任が発生するし。もっと踏み込めば、当然費用もかかるしね。その分、回収しないとって焦るのは絶対に嫌で。今も手作りホームページは続けていて。全然立派なものではないんですけど、自分の好きなようにちまちま作るのが楽しくって、飽きずにやってますね」
■解散後、TASSHI以外のメンバーはバンドを組んだり、ユニットを始めたり、それぞれ音楽活動を続けている中で、「裏方で」と言っていたmayuちゃんがセンター張って、全部1人でやろうとしていたっていう。その根性と覚悟みたいなのも面白いなーと思ってる。
「確かにそうなんですよ。頑固というか。やると決めたら1人でとことん、みたいな。甘えられない自分が確実にいる。いるわぁ」
■(笑)。レーベルを立ち上げて1人で完結させるというのは、自分のペースで長く音楽を続けるための選択だと思うんです。なのにリリースペースが尋常じゃなく早いのはなぜ?
「一体なんなんでしょうね、焦りたくないって言ってたのに(笑)。んー、2020年3月に初めて配信リリースした後、コロナが拡大して、ライブができなくなってしまって。自粛生活におけるハリというか、目標を持って日々過ごしたいなぁと思っていた時に、ご縁があって、ピアノソロアルバムをリリースできることになって」
■歌ものとピアノ作品は最初から平行させていこうと考えていたのでしょうか?
「そうです。ソロ活動をやると決めた時に、歌とピアノソロ、両方やっていきたいという想いがあって。2019年の秋頃から、インスタでピアノ小曲みたいな、1分間の動画をアップしてたんです。それをまとめて発表できたらいいなって思ってまた動き始めて、2020年夏に出して。
そしたらまた歌ものを作りたくなっちゃって、EPができて。年が明けた頃に、今年はどうしようか考え始めて、歌もののアルバムを作ることを決めたという」
■今話を聞きながら、メンバーが5人いたら5つの意見があって、スタッフの意向もあって、すべてをまとめて1個のものを作るとなると、それはきっとものすごく大変な労力で。自分が納得したらGOが出せるというのは、大きいのかもしれないなって。
「それ、すっごく大きいかも。
私の中で脳内Aqua
Timez会議があるんです。そうそう、それはソロの曲を作り始めた時に気付いて。これはあの人がイヤだって言うだろうなとか、すぐにわかっちゃって直したり。リズムのこの感じはみんな盛り上がるよねーとかやりながら、すごい影響を受けているんだなぁって思いながら、1人でウケてて。その上で、自分はこれが好き!で終われるのが、ほんとに早いし今はそれが楽しいんですよね」
■脳内Aqua Timez会議、面白いですね。Aqua Timezイズムと言っていいのかな、私はもうアルバムタイトル『Many TEARS Later』の時点で感じてしまって。SMILEじゃなくてTEARS、やっぱり涙の先にあるんだよなぁって。
「わかる。アルバムタイトルは9曲揃ってから、最後に付けたんです。共作の人の言葉もあるとは言え、自分が収録したいと思った曲は、どれも悲しみや涙がテーマになっていることに気づいて、自分でもびっくりしてしまって。
思い返せば、Aqua
Timezに惹かれた理由もそこだったし、子供の頃から悲しいお話とか、切ない曲にグッときてたよなーって。自分の中に深い悲しみを抱えていて、そこに浸っていたんだろうなって、今ならわかる。やっぱり私は水が半分入ったコップを見て、半分しかないって思う側の人なんですよ(苦笑)。
大人になるにつれて表面的な処世術じゃないけども、“半分もあってよかった”という考え方もあるんだって、後付けでインストールしたという感じ。友だちにアルバムタイトルの話をした時に、“でもTEARSには嬉し涙もあるよね”って言われてハッとして。ハッとしながら、改めて、自分は悲しみにフォーカスした人間なんだって痛感したんです」
■だって88flavorsのプロフィールの、「人と違っている自分を楽しめるようでありたい」という一文に、mayuちゃんの抱える闇を感じたもの。人との違いを感じるのは大抵、秀でた部分じゃなくて、自分の凹み、足りないところじゃない?
「あぁ……私、『ドラえもん』で例えるなら出木杉くんが大好きで、出木杉くんになりたかったんですよ。けど残念なことに自分はのび太だった。しかもそれを自覚したのが結構遅くて、それこそもう、30代とか?」
■クククク。デビューしてますね。
「全然してて。出木杉くんになりきってた頃の自分は厳しくて嫌なやつだったし、すこく苦しかったなぁとも思う」
■出木杉くんだと思い込んでいたら気付けないこともきっとたくさんあって。のび太であることを自覚できたのは、ある種、自分への許しなんだと思うんですよ。
「そう! 許さないと辛すぎるから。自分がのび太だということを受け入れながら、今、着地しているって感じですね」
■そして最初に話してくれた大切なAqua Timezファンの人たちは、多分ね、比較的のび太な要素をお持ちなんだと思うの。
「そうかもしれません。なのでこのアルバムを聴いて、たまに口ずさんだりもして、ダメな自分を許せたり、気持ちが少しラクになってもらえたら本当に嬉しいし。私の活動の意味って、そういうことなのかなって思ってますね。自分の中の悲しみをなんとかしたいのと同時に、聴いてくれる人の悲しみもすくい上げられたらいいなっていう」
■多くの曲を共作しているカユさんについて、聞きせてもらえますか?
「10年来の付き合いで、お互いのバックボーンを知ってて、似てる部分もあって。ただ表立った活動をしたくない人だから、すべて非公開で、言えることは何もなくて。で、自分がシンガーソングライターでやっていくとなると、作詞に苦戦するだろうと思ったんですよね。それはあの、人類は詩人か、詩人じゃないかに分かれると思ってて」
■斬新な説、出た(笑)。
「あははは。太志はあらゆるものが詩人なの。メールひとつとっても、一言一言が詩になっているから、いつも感動するというか。でも私はそうじゃないんだよなぁと思っていた時に、カユさんが手を挙げてくれて。最初の3曲を出した時から共作をお願いしています」
■例えば、1曲目「泣いても」は歌詞がカユさんで、曲は共作になっていますが、具体的にどういうふうに作っていったのでしょう?
「“泣いても”はカユさんから歌詞となんとなくメロディを渡されて、それを私が曲に仕上げたっていう感じですね。“崖の街”もそうだし今回その形が多いかな。あとは最初にテーマを話し合って作った曲もありました。“サムライガール”とか」
■「サムライガール」はもう、どうしたらこんな面白い曲ができるんだろうって思ったな。
「これはえっと、Aqua Timezのギターの大ちゃんのお父さんと昔から交流があって」
■大介さんのお父さんと交流!?
「そう(笑)。人生の楽しみだって言ってよくライブに来てくれて、とっても応援してくれてたんですよね。たまにみんなで一緒にご飯を食べたりもしてて。で、私がソロを始める時にご連絡して、ライブも考えているから、コロナが落ち着いたら来てくださいねって伝えたら、その時のお返事が“ライブがあったら、万難を排して駆けつけます”っていう。
それが本当に嬉しくて、ものすごく印象的で、これを絶対に曲にしたいんだってカユさんに話したら、まんまと最初のフレーズになって返ってきて。“めっちゃいいじゃんっ!”って盛り上がって、さらに作っていった感じ。完全なる悪ふざけですね」
■これまでにないタイプの曲ですが、歌入れはどうだったのでしょう。
「ボイトレの先生からアドバイスをもらいつつ、歌い方を模索していったんですけど。最初の私の歌唱技術ではできなかったことも、練習していくうちにいろんな声が出せるようになってきて。“サムライガール”は、自分の声じゃないみたいって思うくらい成長を感じましたね、我ながら(照笑)」
■ボイトレは以前から通っていたんですか?
「去年の夏からです。Aqua Timezではちょっとしたコーラスしかやってなかったし、たまにやるアカペラも、苦しいなと思いながら歌ってて。なのでこの歌じゃソロでライブができないと思ってボイトレに通い始めて。先生が一言おっしゃる度にほんとに歌いやすくなるから。目から鱗のことがいっぱいで、毎回、新しい扉が開く感触があって、楽しいです」
■その成果なのかな。個人的に〈爺、馬を引け〉が大好きで、毎回、クスクスしてます。
「そこ、一番こだわったところだから、めちゃくちゃ嬉しいです(喜)。何回言ったことか“爺、馬を引け”を。ハハハハ」
■この曲にユーモアが溢れたのは、メロディや歌詞やアレンジだけじゃなく、歌声も思いきり振り切れているからだよなーって思う。
「そんなそんな、大変畏れ多くも光栄です」
■一転、3曲目の「colors」はメロウで音の隙間も多い。歌うのは相当難しい曲ですよね。
「そうなんですよ。ラクに歌えるのは1個下のキーなんですけど、それだとニュアンスが出なくて高いキーに設定しちゃったので、めっちゃ練習しました。日浦くんの描いたこの想いを声にして伝えたいっていうのがあって、この曲は特にすごく思って、頑張りましたね」
■この歌詞を書かれている日浦駿介さんについては聞いても大丈夫?
「はい。日浦くんは作詞もするけど、ストリート書家の活動もしていて。Aqua
Timez時代から、何か一緒にやりたいねって話をしていたものの、なかなか実現できず。今ならフットワーク軽くなんでもできるから、お願いして。
出会った時は二十歳だったのかな、とにかく若い男友だちっていう感じだったから、歌詞を受け取った時は、ああ、こういう切ない恋をしたんだな、大人の階段を登ったんだなぁみたいな姉心的驚きがまずあって。あとは自分ではこのような失恋の歌詞は絶対に書けない、すごくいい歌詞だったので、かなりやり甲斐を感じましたね」
■歌詞を受け取って感じるやり甲斐は、まさしく人と一緒にやる醍醐味ですよね。
「そうそうそう。最初は全部1人でやりたかったけど、作っていくうちに誰かとやりたくなってきて。詞曲だけじゃなくて、お願いして一緒に演奏してもらうことも少しずつ増えているところですね、今まさに」
■確かに。「泣いても」や「サムライガール」のクレジットにはOKP-STARさん(B/リズムプログラミング)や、小関純匡さん(Dr)、高田歩さん(G)の名前が、「崖の街」ではクラッシャー木村さんのバイオリンが響いてました。個人的には田中真二さんがリズムプロミングされている「公園」がとても面白かったかな。
「本当ですか。私の中ではクラシカルとでもいうんですかね。自分のやりやすいところという意味で、結構真面目路線だったんだけど」
■それもわかります。こういうコード感、mayukoさんの声に合いますよねって思うし。
「ちょっと暗い感じ?」
■そうそう(笑)。アコーディオンの音色に懐かしさと哀愁が漂う、センチメンタルな正統派ポップスなんだけど、一歩踏み込むと、怒鳴り散らしたい曲だから。
「こういう時ってあるよねっていう感じですかね。フフフフ。歌詞はふざけているから、そこの組み合わせを楽しんでもらえたなら、総じて面白くなっているのかなって思う」
■そんな軽いものじゃなくて、狂気を孕んだアンバランスなバランスだと思うなぁ。
「公園の優しい木漏れ日と、自分のやるせなさと、さらに周りがわけのわからない感じで盛り上がっていっちゃうコントラストがね。あはははは、ほんとですね」
■続く「Day by Day」は詞曲ともにmayuko作です。
「好きな人ができて付き合ったら、浮気されてることが発覚してみたいな、ひと夏の恋の歌になってます。〈春めく、ときめく、めくるめく〉だったかな、インスタに言葉をあげた時に、“○○めく”っていう言葉、いいなぁと思って作り始めた曲で」
■詞先ってことですか?
「はい。Aqua
Timezの時は、歌詞は自分の担当じゃないっていうのもあって、メロディだけ作ることが多かったし、それがあたり前だったんですけど。今回は実はメロディから作った曲が一個もなくて。確かに新しい体験というか、ソロになって始めた作り方かも。
自分で曲を作るってなった時に、歌いたいことを決めないと歌詞もメロディも出てこなくて。自然と今は言葉とメロディを同時に考えるようになっていますね」
■シンプルだからこそ、伝わるものがあるというか。他の曲と違って、いろんな音が入ってるわけでもないし。
「唯一、ピアノと歌だけの曲ですからね」
■ピアノが歌以上に歌い、歌声は歌詞に寄り添って心弾ませたり、華やいだり、泣きわめいたり、物語と一緒に展開していく。声の表現が豊かな曲だなぁと思いました。
「えー、めちゃめちゃ嬉しい。ライブではもっと、ミュージカルとまでは言わないけど、同じようなメロディなんだけれども、言葉の響きで景色や感情が伝わるといいなと思っていて。歌詞を書くのが遅いから、詞も曲も作るとなるとたくさんはできないだろうなぁと思いつつ、自分で作るのはすごく楽しいなって、この曲が完成した時に感じましたね」
■では、もうひとつの自作曲「Thank you」はどうだったのでしょう?
「私が困った時にいつも助けてくれる友だちが、去年、病気で亡くなったんです。ご家族とやりとりしていく中で、自分の今の気持ちを曲にしたいなと思って。今のっていうか、少し落ち着いたくらいの気持ちかな。しかし完成させたものの、泣けて泣けて歌えない日々が続いて。そしたらボイトレの先生が、
“泣くだけ泣いたらいいよ。その後に歌う歌が、本当にみんなに伝わる歌だから”って言ってくれて。
そこからひたすら泣きながら歌う作業をしたんですよ。本当にちょっとずつちょっとずつ悲しみが癒えていくような感覚になって。うん、そういう曲ですね。同じような経験をされた人もいらっしゃるだろうから、想いを共有できたらいいなって思う」
■子供の頃は出会いばかりだけど、大人になると、人との別れに立ち会う機会が増えるから。この曲は聴く人の年代や経験値によって、響き方が変わるんじゃないかな。
「そうですね。私、24歳の時に母親が他界して、身近な人を亡くすという初めての経験と直面して。その時からずっと考えているんだけど、わからないのが“死ぬ”ってことで。わからないから不安もあるけれど、わからなくても生きていくんだよなぁと思う。そういう、わからないなっていうことも歌詞にしていきたいとも思う」
■最後に置かれた「いつもの星」にも、強い想いがいっぱい詰まってました。中でも〈産まれてありがとう という言葉がほしかった〉というフレーズはキモかなって。
「〈産まれてありがとう〉は、多分私とカユさんの共通のテーマで。自分が生まれてきたことに対して、積極的に嬉しい気持ちになれる人ばっかりではないのかなっていうのは、ずっと考えていたことで。しかもそれって人生において結構大きな感情で、自分の存在を自分で認めてあげられるかどうかを左右する重要な部分の気がしてて」
■イコール、自己肯定ですからね。
「そうそうそう。私自身、“あなたが産まれてきてくれてよかった”と思われてるなんて感じられない状態で幼少期を過ごしてしまった。実際は思っていたのかもしれないけれど……。そこでまた『ドラえもん』の話になっちゃうんですが。しずかちゃんがお嫁に行く日の挨拶で、パパに“私、何も恩返しもできてない”と言うと、しずかちゃんのパパは“君が産まれてきたことが、もうそれだけで贈りものなんだよ”って優しく答えるシーンがあって、今言ってても超泣けるんだけど(泣笑)。
大人になってからそういうことを考えていたら、その言葉をあまりにも欲していたせいか、血の繋がったおじさんに同じようなことを言ってもらって、それが本当に嬉しかったなっていう話をカユさんとしたりしていました。最終的には自分自身でそう感じられて、ちゃんと自分を大事にできるといいなと思いつつ、自分で自分に言うのは少し難しいから、人から言われたい気持ちがね、やっぱりありますよね(照)」
■もちろんです。いや、人に言われてなんぼですよ。肯定の言葉や、尊敬の眼差しや、大切に思う態度は、自分も積極的に出していきたい。
「ねっ。だからEPに収録した“happy birthday to you”は、毎年、私の誕生日にお祝いメッセージをくれるファンのみんなに恩返しをしたいなっていうところから始まったんだけど。じゃあどんな言葉を誕生日に贈ってあげたいかと言えば、もしあなたが自分は誰にも“「産まれてきてくれてありがとう」”と思われてないって感じてるとしても、私は思っているよということが言いたかった、その想いだけはちゃんと伝えたいと思ったんです」
■2ndアルバムだけど歌ものとしては1枚目。改めてどんなものができたと思いますか?
「涙をテーマにしてて、悲しみにフォーカスしているんだけど。音楽って自由だし、聴いてる間は嫌なことを忘れられたり、気持ちが晴れたりすることもあるから。うん、そういう楽しいアルバムになっていると思います。あとはもう、2021年上半期mayukoですよね(笑)。
やっぱりどこまでいっても自分であり、自分のいろんな面が出ているし、こうやって出すことで自分という人間を再確認して、かつ、これをライブで歌うことでまた自分が補強されるみたいな。結果、より生きやすく、より楽しく人生が進むための作品になったのかなっていう感じです」
(インタビュー=山本祥子)